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第三章
1.
怒りが僕の心を支配していた。
静かに眠る大塚の表情に苦悩も苦痛も見えなければ、苛立ちはさらに膨れ上がった。
僕の両手が大塚の首を締め上げる。
大塚の首は男にしては細すぎて、僕の指はすんなりと大塚の柔らかい皮膚へと食い込んだ。
簡単にグッと指の力が入る。
眠ったままの大塚の表情が変化した。
苦しそうに顔を歪めると、僕はさすがにハッと我に返った。
指の力が抜けていった。
大塚は目元に汗をかいていた。
その汗が滲んで、皮膚から肌色の液体が溶けている。
それが化粧であるということに気付くと、僕はじっとその肌を見ていた。
化粧が剥がれた皮膚は黒ずんでいるのが伺えた。
その肌の色に目を奪われる。
その時、ガラリと病室のドアが開いた。
音に振り返ると、入ってきた中山と目が合った。
中山は僕を怪訝な目つきで睨んでいた。
僕の両手はまだ大塚の首を捉えていた。
バッと慌てて、手を離す。
中山は僕の行動を咎めるようにじっとこちらを見据えてくる。
僕は居た堪れなくなり、入口に立っている中山を跳ね飛ばす勢いで、病室から外へと飛び出した。
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