第三章

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「千紗さんって、肉親がいないんだろう? お前が死んだら、千紗さんは本当に一人になるんだ。悲しむことも、寂しい思いをすることも、当たり前に想像がつく。 ましてや、大塚の病気は千紗さんのことを忘れるかもしれないんだろう? 倒れた後に介護をさせることだって考えれば、身を引いた方がいいって思ったんだろうな。 だけど、別れると決断してもさ。ずっと自分のことを愛して欲しいとも願ってしまった。 男って、女々しいな。 俺も、妻に浮気されるかもしれないなんて心配しながらも、妻だけは俺のことをずっと好きだと思ってくれると信じたい気持ちもあるし」 加藤の言葉に、何も返せない。 そう僕も、大塚に何て事をしてくれたんだ!と怒りがありながら、心の片隅では大塚のことを憐れんでいた。 自分が死ぬ運命を背負うとはどういうことだろう。 僕は余命宣告をされたらどうするのだろう。 千紗に最期まで、傍に居てほしいと願うのだろうか。 大塚のように、千紗の事だけを考え、身を引く強さなど持ち合わせているのだろうか。 答えはすぐに出そうになかった。
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