第三章

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私の心が彰人さんとアキの間で、本当にどっちつかずになってしまった今を間違いだとするなら、アキの後を追いかけてみようと思ってしまったあの時の自分の行動を酷く責める。 私は気付いてしまった。 アキが何故、私を振ったのかということを。 近くで面と向かって見たアキは、以前よりもだいぶ痩せていた。部屋にはたくさんの内服薬が置かれていたし、アキの皮膚に以前はなかった色素沈着が見られた。 部屋に入ってすぐに目隠しをされてしまったとはいえ、アキの身体に触れた時、何か病気を罹ったのだということは分かってしまった。 私はアキの何を見ていたのだろう。 アキをあんなに好きだったのに、アキの本当の思いにどうして気付くことができなかったのだろう。 私を抱きながら、アキは静かに泣いていた。 アキはずっと私がいない間、泣いていたのだろうか。 私が泣いていた時も、一緒に泣いていたのだろうか。 アキは最後に、いつまでも永遠に、私の心に自分の存在が残ることを強く願ってから、私を部屋の外へと追い出した。 その日を境に、アキは私の前に現れなくなった。 アキが住んでいたアパートに数日後また訪れてみたけれど、すでに引っ越した後だった。 彰人さんがたまたま脱ぎ捨てていたネクタイを見た時、私はアキに抱かれたあの日のことを思い出してしまった。 私は彰人さんの声に、アキを重ねた。 いつまでも永遠に、私がアキを思い出す。 アキがそう願ったことを叶えたいと思ってしまった。
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