第三章

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一昨日、しばらく姿を見せなかったアキとリビングの窓越しに目が合った瞬間、私の気持ちはどこか弾けてしまった。 彰人さんが自宅を出た後、私はアキを追いかけて、アキを自宅に招いてしまった。 彰人さんが建ててくれたこの家に、アキと二人きりでいることは落ち着かなかった。 リビングから見える富士山のことをアキに話して聞かせるなどして場を盛り上げたけれど、いけないことをしているように感じた。 アキは前回会った時よりも更に痩せていた。 色素沈着を隠すためだと思う。 顔に化粧をしているのも分かった。 だけどアキに病気の真相は聞けなかった。 確信に迫ったら、私もアキも苦しくなるって分かっている。 私は彰人さんと結婚した。 私たちは、もうあの頃には戻れない。 もうアキの元には戻れない。 もう私は、アキに何もしてあげられない。 私の心は彰人さんに捧げた。 だけど、学生時代のアキへの思いはどうしても無くせない思いだった。 私が思う以上に私のことを思っていてくれたアキに、私は他に何をしてあげられるのかと考えて、私はアキに「愛してる」と伝えた。 そして、もう一度抱かれることでアキの思いに応えられるなら、また抱かれてもいいと思ってしまった。 アキをリビングに待たし、寝室に向かった。 アキを思い出す時に使う目隠しの布を棚から出す。 私がアキに返せることはコレしかないと思いながら、彰人さんのことを思った。 私がアキを誘えば、彰人さんに対して、完全な裏切り行為になる。 どうしようと悩んでいるうちに、玄関のドアが開く音がした。 慌てて寝室を出ると、もうアキは帰ってしまった後だった。
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