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6.
千紗は快感に耐えながら、目を決して閉じなかった。
彰人さんと僕の名を呼び、大塚の名は一度も発しなかった。
それを見届けて僕はやっと、果てると同時に抑えられなかった嫉妬から解放された。
最後に優しく千紗にキスをする。
「千紗、愛してる」
僕はやっと声を出した。
「……彰人さん」
「……ん?」
「……私のことを許してなんて言う資格はないけれど、私が彰人さんのことを愛してるのは本当なの。
それに、アキの代わりとして、彰人さんを好きになったわけじゃない。本当よ、それだけは信じて」
「……うん」
「だけど……、もし奇跡が叶うなら、私はアキと別れたあの日に戻りたいとも思ってしまう。
アキの本当の思いを知ってしまったら、悔やんでも悔やみきれない。あの頃の私の思いも、アキの私への思いも、私は無かったことにはできないの」
「……うん」
僕は千紗の思いを、分かるとも、分からないとも言ってあげられなくて、ただ頷くことしかできなかった。
千紗は大塚のことを結局、見過ごすことができないのだ。
「千紗……、僕たち一度、距離を置こう?」
「え?」
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