93人が本棚に入れています
本棚に追加
「千紗はその間に、大塚とやり直してみたっていい。大塚が亡くなってから悔やんだら、この先ずっと後悔するはめになる。それなら、大塚のそばに今は居てあげたらいい」
「彰人さん」
「大塚が亡くなった後、もし千紗が僕を必要とするなら、僕のところに戻って来ればいい。
僕はこの家で、千紗が帰ってくるのを待っているから」
「……彰人…さん」
千紗の涙声に、僕も泣きそうになってくる。
千紗と別れることは本当に辛かった。
だが僕らが改めて歩き出すには、そうすることが一番だと感じた。
僕だって、大塚の亡霊に一生悩まされたくはない。
大塚のことを気にしている千紗にずっと嫉妬や不安を抱くくらいなら、本当に大塚と千紗の関係が過去となり思い出となった後の方が、僕の気持ちは平穏なのだ。
千紗の答えを待っていると、僕のスマホの着信音が鳴り出した。
僕は千紗から視線を外し、スマホを取りに動いた。
着信相手は中山文香であることにドキリとしながら、僕は通話ボタンを押す。
『こんばんわ』と受話口から中山が言う。
「どうも」
僕は少し身構えながら、答える。
『どう? あれから千紗さんとは何か話したのかしら?』
「……ああ、話したよ」
『あら、……そう』
中山は僕たちが話し合っていることに少し驚いたようだった。
「それで、何か?」
『ええ、水瀬さんにとっては吉報をお伝えしようと思って』
「吉報?」
最初のコメントを投稿しよう!