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9.
僕は隣で並んで歩く、千紗の手を取り、ぎゅっとその小さな手を握った。
千紗は僕を見て、微笑むと、ぎゅっと握り返してくれた。
千紗は知らない。
僕らの出会いが大塚によって仕組まれていたこと。
そして僕らの住むあの家が、大塚のおかげて建つことができたということも。
僕はこれからもそれだけは千紗に明かすつもりはない。
大塚に裏でそれらを仕組まれていたとしても、千紗がそれを知らない限り、僕らの愛の始まりは偽りでは決してなかったと僕は信じられるから。
人に愛すること、愛されることは、たとえどんな形であれ、その人を強くもする。
大塚の千紗への愛は、いびつかもしれない。
僕の千紗への愛も、大塚の存在を知って、歪んだかもしれない。
だけど僕は結果的に、大塚晴明にとても大切に愛された千紗を愛したから、今がある。
だから、君の心がこれからも、大塚が願ったように「ぼくとアイツでひとつ」だとしても、僕は死んだ大塚の分も合わせて、君を支えて、生きていく。
そして、富士山が見えるあの家は、これからもずっと千紗を励まし、幸せにしてくれるはずだ。
「帰ろうか。ぼくらの建てたあの家に」
「うん」
僕らはあの家へと続く坂道をこれからもずっと並んで歩き続けていく。
END
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