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残業で疲れた俺はアパートの前に着いて更に疲れが増した。二階の隣人の部屋の窓に男の影を見たからだ。 今夜は早く寝たいんだ、勘弁してくれ……。 俺はわざとうるさく階段を上ると、壊れるくらいの勢いで自分の部屋のドアを閉めた。 また何かが割れる音がする。男の怒鳴り声と泣きながら叫ぶ女の声。 おいおい、今夜はケンカかよ。 俺は再び壁を叩いた。すると隣が静かになる。 よし、今夜も迷惑だと気付いてくれたようだ。さて寝るか。 布団に入り目を閉じたとき、また男の怒鳴り声がした。 ご近所さんごめんなさい。俺はもうキレました。 窓を開けると隣部屋に向かって「うるせーよ!! 静かにしろ!!」と叫んだ。俺の声も大概迷惑だろうが、少なくともアパートの他の住人の気持ちを代弁したはずだ。 今度こそ静かになった。 俺は決めた。明日また騒いだら怒鳴りこんでやる。 翌日は営業先から直帰だった。久々に外が明るい内に家に帰れた。 アパートの階段を上がると、隣の部屋から女が出てきた。今日の女はマスクをしていた。 「あ……こんにちは」 「こんにちは……」 お互い気まずい空気が流れた。 「いつもすみません……」 女は俺と目を合わせずに言った。騒いでいることを謝罪していることはすぐに分かった。 「あ、いえ……とんでもないです……」 弱々しい声しか出せない自分が情けなくなる。昨日は苦情を言う気満々だったのに、いざ本人に会うと言葉が出てこない。 「じゃあ……」 「失礼します」 女は横を通りアパートの階段を下りていった。俺は女の目の横にアザがあるのを見た。 ケンカして殴られた……のだろうか?
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