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◇◇◇◇◇ 数日たっても変わらず隣部屋からの音に迷惑していたが、女のアザを見て以来俺は違う心配をしていた。 男の怒鳴り声、何かが割れる音、泣き声。それってDVというやつじゃないか? 警察に通報した方がいいか、ほっとくべきか……。 迷っていると今夜も隣から男の声が聞こえ始めた。ガシャン! とまた何かが割れた。 おいおい……下の階のやつとかも迷惑してるだろうから通報してくれよ……。 「やめて!」 壁越しにあの女の声が聞こえた。 俺は腹を括った。自分の部屋を出て隣の部屋のチャイムを押した。 「すんませーん……」 暫くして男が出てきた。 「何か?」 俺は拍子抜けした。どんな強面のにーちゃんが出てくるのかと思ったが、目の前の男は細身でメガネをかけた優しそうな男だった。 「あの……もう少し静かにしてくれません?」 「すみません。ちょっとケンカ中でして」 男は眉を下げ申し訳なさそうに謝る。俺はドアの向こうに女の姿を探したが、部屋の奥にいるのか姿が見えない。男は俺の視線を遮るようにドアを少し閉め、部屋の中が見えないように立った。 「本当にすみません。気をつけますので」 「お願いします……」 言うことを言った以上、もう自分の部屋に戻るしかない。 その後は隣の部屋から物音一つ聞こえなかった。 部屋の前でカバンの中から鍵を探していると、アパートの階段を誰かが上がってくる音が聞こえた。思わず目を向けるとあの女が買い物袋を持って上がってきた。 「こんにちは」 「こんにちは……」 一瞬息が詰まる。女の右手首に包帯が巻かれていた。俺の横を無言で通り抜けようとしたが「あの!」とつい引き止めてしまった。女は不思議そうに俺を見た。
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