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201号室に帰ると、鞄を置きいつものように202号室に行く。
合鍵で中に入ると、隣田くんは布団で眠っていた。
建築現場でアルバイトとして働いている彼だが、最近正社員に昇格した。張り切りすぎて疲れているのだろう。私ははだけている彼の布団をかけ直した。そしてその寝顔をそっと見つめる。
201号室と202号室の間の壁をとっぱらってしまいたいと思う時がある。
このアパートから出て、二人でもっと広い部屋に住みたいと思う時もある。
でもやっぱりこうして、狭い1Kの部屋に二人でいる時間も名残惜しくて、ずっとこのままでいいかとも思う。貧乏癖が直らない。でも、それでいいと思う。
その時、どん、と下から突き上げるような衝撃がし、辺りが激しく揺れ出した。
いつもより大きめの地震だった。
アパート全体が軋む音がした。本棚やテレビがガタガタと震え、天井では裸電球が振り子のように揺れている。ひどい横揺れだ。ここは二階なので、余計に強く感じるその振動に私は思わず怯えた。
「花子!」
目が覚めた隣田くんが、私の頭を抱える。
そして落ちてくる雑誌やフィギュアから守ってくれる。地震にはビビリの私だが、隣田くんの腕に包まれ安心できた。あとは揺れが収まるのを待つだけだ。
しかし、築78年の記録的建造物である我がアパートは唐突に限界を迎えた。
「え!?」
「え!?」
「え!?」
1Kの片側の壁が突如崩壊し、隣の部屋が丸見えになった。
そこにはパンツ一枚で布団に寝そべる向井一郎の姿があった。
〈完〉
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