隣の壁が壊れたら

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   * 「ママね、日本に戻ることにしたの」  壁が崩壊した日から半年が経ったある日。  バイト終わりに道端を歩いていると、モロッコから国際電話が掛かってきた。  iPhone X(2018年購入)の通話ボタンを押すと、その向こうにいたのは久々のママの声だった。 「……ママ? 帰国なんてどうしたの、いきなり。まさかまた離婚したの?」 「ううん、今度はパパと一緒よ。パパに日本のアニメを見せたらね、日本の文化をいたく気に入ってくれて。日本に移住したいって言ってくれたの。来月にはそっちに行くわ」  その言葉に、私は嬉しくなった。  私はもう成人しているので甘えるような歳ではないが、やはりパパとママに会えるのは嬉しい。パパは日本語が話せないから、私はいつか会える日を夢見てベルベル語を習得していた。ついにその成果を発揮できる日が来たのだ。  しかしそんな気持ちを隠すように、私は分かった、と素っ気なく答えた。  ママは続ける。 「私たちしばらくはホテル住まいだけど、いずれマンションを借りる予定よ。花子は最近どう? もし生活に困っていたら、一緒に住む?」  私はその言葉に、少し言葉を詰まらせる。  でも、答えは決まっていた。 「……大丈夫よ。私、楽しく暮らしているから。帰国したら会ってほしい人がいるの。楽しみにしていてね」  私の言葉にママが話の続きを追求しようとするが、じゃあね、と言って通話を切った。  別に私が払う訳では無いが、国際電話は通話料が高い。相変わらずの貧乏癖だ。  
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