10人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「ママね、日本に戻ることにしたの」
壁が崩壊した日から半年が経ったある日。
バイト終わりに道端を歩いていると、モロッコから国際電話が掛かってきた。
iPhone X(2018年購入)の通話ボタンを押すと、その向こうにいたのは久々のママの声だった。
「……ママ? 帰国なんてどうしたの、いきなり。まさかまた離婚したの?」
「ううん、今度はパパと一緒よ。パパに日本のアニメを見せたらね、日本の文化をいたく気に入ってくれて。日本に移住したいって言ってくれたの。来月にはそっちに行くわ」
その言葉に、私は嬉しくなった。
私はもう成人しているので甘えるような歳ではないが、やはりパパとママに会えるのは嬉しい。パパは日本語が話せないから、私はいつか会える日を夢見てベルベル語を習得していた。ついにその成果を発揮できる日が来たのだ。
しかしそんな気持ちを隠すように、私は分かった、と素っ気なく答えた。
ママは続ける。
「私たちしばらくはホテル住まいだけど、いずれマンションを借りる予定よ。花子は最近どう? もし生活に困っていたら、一緒に住む?」
私はその言葉に、少し言葉を詰まらせる。
でも、答えは決まっていた。
「……大丈夫よ。私、楽しく暮らしているから。帰国したら会ってほしい人がいるの。楽しみにしていてね」
私の言葉にママが話の続きを追求しようとするが、じゃあね、と言って通話を切った。
別に私が払う訳では無いが、国際電話は通話料が高い。相変わらずの貧乏癖だ。
最初のコメントを投稿しよう!