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「キモい」
としか思えなかった。いや、意図せず声に出てしまった。
夜が明け、冷静になって見つめた隣田くんの102号室はいわゆるオタク部屋だった。
元から一部屋だったのかと思えるくらいに、101号室と102号室の間の壁は一欠片も残さず崩れ去っていた。畳に散らばる瓦礫の向こうには、かわいい女の子たちが映ったポスター、生写真、CDが山となっている。
この子たちを知っている。最近流行りだした歌手、愛$ーズだ。『今一番金がかかるアイドル』がキャッチフレーズだった気がする。
テレビ台に置かれたフォトスタンドの中で、グループのセンターを務める夢ミルヨちゃんが柔らかな朝日とともに輝いていた。
「なんだと。お前の部屋だって同じじゃねーか。キモいんだよ」
隣田くんが反論する。私は自分の部屋を振り返った。
私の部屋も同じく、360度がポスター、フィギュア、CDで埋め尽くされている。
だが決してオタク部屋ではない。アニメ『僕ら! 歌って踊れる☆ミラクルボーイズ』を崇め奉る部屋だ。住居というより神社仏閣に近い。隣田くんとは違うのだ。姿勢が。
キラリくん(cv: 飯野コエガ)とサラリくん(cv: 響ヨシヲ)の尊さを小一時間説明しようと思ったが、時間の無駄なのでやめた。
それより一刻も早く、この部屋をなんとかすべきだ。
「とにかく部屋を仕切りましょう。見苦しいし、プライバシーが無さすぎるわ」
「どうやって」
「つっぱり棒とカーテンを買ってくるのよ」
費用は割り勘で? と言われたところで、私たちは互いに口をつぐんだ。
その瞬間、言葉にせずとも私たちは意思疎通していた。家賃3万円のアパートに住む私たちは、数千円も惜しむ程の貧乏なのだ。
正確に言うと、推しに貢ぐ金以外はこの世に存在しないのだ。収入に対する支出のバランスがおかしいところが私たちの貧乏人たる所以だ。
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