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ひとしきり無言で見つめ合うと、私は話し合いを打ち切った。
それは現実逃避にも近かった。
「私、これからバイトに行くから。私の部屋、覗かないでよ」
そう言い捨てると、私は取り急ぎ鞄を持って外に出た。
私のバイト先は秋葉原のアニメ総合販売店だった。
平日の真昼間は客が少ない。それをいいことに、私は受付に立ちながら泣いていた。
「ハナコ、ドーシタ? ダレカトオモッタヨ」
化粧をする気力も無くすっぴんのまま店に立つ私に、同じバイト仲間のアフマドくんが話しかけてきた。
彼はモロッコ人で、日本のオタク文化に感銘し留学してきた大学生だった。私は彼に「私の父はモロッコ人なの。母は日本人。私が生まれたのはモロッコなのだけど、小さい頃に両親が離婚して日本に戻ってきたの。でも最近母はまた父とよりを戻して、私を置いてモロッコに行ってしまったわ」と言ったら、すぐに友達になってくれた。
「聞いて。実はね、キモい事件が起きたの」
私は泣きながら事の顛末を話した。アフマドくんは静かに聞いてくれた。
話し終えると、アフマドくんは腕を組み、私に優しい眼差しを向けた。
「ソーカ。デモハナコ。カナシムコトハナイトオモウヨ」
そう言って、穏やかに微笑む。
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