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そして、壁が崩壊して二ヶ月が経ったある日のことだった。
「ごめんくだしゃいねい」
その声にドアを開けると、思いがけずそこには大家さんが立っていた。
私と隣田くんはバイトも終わり、二人とも部屋に揃っていた。私たちは102号室に大家さんをお招きした。
しぶしぶ裸電球を付ける。隣田くんが座布団を提示すると、大家さんはそれを断り、自ら持ってきていたらしい黄金の座布団の上に座った。そして天井に生えたきのこを見上げながら、「こんなところに住む奴の気がしれんねい」と呟いた。
大家さんは話があって来たのだろうが、私はつい先に質問してしまった。
「あの、管理会社から一向に連絡が来ないのですが。話は進んでいますか?」
「すまんねい。実は面倒くさくて管理会社に電話しとらんかったんねい。さらに、唄ウマ子の結婚に加えて来月引退の報道が出たのでずっと寝込んでおったんねい」
「このクソジジイ」
としか思えなかった。いや、意図せず声に出てしまった。
しかし大家さんは、私を宥めるように両手を前に出す。
「まあ待つねい。本来の窓口は管理会社なのだから、本当はワシに頼む方が間違っとるんだねい。ところで、二階の201号室と202号室が空いたねい。このアパートの耐震性が心配だそうで、住民が引っ越していったんねい」
そりゃそうだ。震度4程度で壁が崩壊するようなアパートだ、いつ建物全体が崩壊してもおかしくない。かなりアウトな物件な気がする。家賃3万を払っているが、こちらが貰いたいくらいだ。
「それでだねい。二階が二部屋が空いたらから、お前さんたちその部屋に移らんかねい。どちらにせよ修繕中は部屋から出ていってもらうことになるし、とりあえずこの部屋は不便だろうねい」
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