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それはいつもより大きめの地震だった。
アパート全体が軋む音で目が覚めた。本棚やテレビがガタガタと震え、天井では裸電球が振り子のように揺れている。ひどい横揺れだ。ここは一階だが、体が転がっていきそうな程の振動に私は思わず怯えた。
布団に丸まったまま手を伸ばす。ちゃぶ台の上に置いていたiPhone 3G(2008年購入)を見ると、ひび割れた液晶に『震度4』の文字が浮かび上がっていた。日本では決して珍しくはない大きさの地震だ。だけれど毎回、私にとっては冷や汗ものなのである。
窓からは月明かり――もといコンビニ明かりが入り込み、室内を仄暗く照らしていた。薄闇に揺れる部屋を見つめながら、私はそわそわと揺れが収まるのを待っていた。
しかし、築78年の記録的建造物である我がアパートは唐突に限界を迎えた。
「え!?」
「え!?」
1Kの片側の壁が突如崩壊し、隣の部屋が丸見えになった。
そこにはパンツ一枚で布団に寝そべる隣田太郎の姿があった。
悪夢の始まりだった。
*
「管理会社に電話したがねい、これから修繕計画を練ることになるだねい。とりあえずこのまま、連絡を待っておくれいねい」
「そんな」
「そんな」
私と隣田くんは翌朝、アパートの真横に住んでいる大家金男のお宅を訪れた。
大家さんはこのアパートの大家さんだ。昨晩は天地を揺るがす程の崩壊音がしたはずだが、大家さんの家に行ってみても応答は無かった。
昨夜、大家さんは若手演歌歌手の唄ウマ子が結婚したことがショックで、ヤケ酒をしふて寝していたらしい。こちらはアパート全住民が我が101号室を見学しに来たくらいの騒ぎだったのに、ひどいものだ。
「あの、私たち今日からどうしたら……」
「とりあえず管理会社から連絡が来るからねい。それを待っておくれいねい」
大家さんはそう言うと、黄金に輝く分厚いドアを閉めた。
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