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「明日より西日本に大寒波が到来します。日本海側にお住まいのかたは大雪に備えましょう。」
そんな天気予報を見ながら仕事場を後にする。今日も十分寒いと思うのだけれど、これ以上の寒さって。明日は出掛ける予定があるけど、服装、どうしたもんかな。スカート…寒いかなぁ。
そんなことを考えながら帰路につく。残業で遅くなった帰り道。電車が暖かくて、ついウトウトしてしまった私は、一駅乗り過ごしてしまった。時間も遅く、逆のホームの電車もまだ来なそうだったので家まで歩くことにした。
改札を出ると、雪がちらつき始め、鞄から折り畳み傘を取り出し、歩きなれない道を雪の中歩く。一駅違うと町の空気感が少し違う気がする。ベッドタウンの隣の駅は、駅前にあるお店なんかも居酒屋よりファミリー向けのお店が多く、落ち着いた雰囲気。大きな道路沿いから一本入り、静かな道を歩くとお店の裏で傘をさした人が立っているのが見えた。お店の店員さんみたいな服装だし休憩中?と思ったけどタバコを吸うわけでもなく、ジーっとしているのはなんでだろう。近付いていくと、足元に何かいることに気づいた。 あの人の足元に…猫が傘に入っている!!なんてアニメみたいなシチュエーション!でも傘を指す男の人は猫を見るわけでもなくボーッと立っているし、猫もじっとして、お互いそっぽを向いている。珍しすぎる光景を見つめながら通りすぎようとしたら、手にしていた携帯を落とし、派手な音がなった。
ガシャン!!
その音に猫は驚き逃げていき、男の人がこちらを向く。
「すみません!猫ちゃん…。」
「いいんですよー。僕も猫が傘に入ってきて、雪の中追い出しづらくてちょっと困ってたんです。携帯は大丈夫ですか?」
と、はにかみながら言う彼は思ったより若そう。
「あっ…。」
と携帯を拾い上げると、つけていたストラップが一部ない。旅行のときに買って気に入ってたやつ…。
「ストラップが。。」
「どんなのですか?」
と言いながらしゃがんで見回してくれる彼。
「丸くてキラキラしてるのなんですけど…。もう、あの、見当たらなかったらいいです!」
「雪も降って暗くて見えないし、また明るくなった時に見ておきますよ!俺、ここで働いてるので、良かったらまたこのあたりを通ったときに声かけてもらえたら。」
と言って名刺を渡された。
「あ、ありがとうございます。」
この雪の日の夜、私たちは出会った。
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