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男の手には鉄パイプが握られている。
「おいっ!」
ヤバイ、と思った時には既に駆け出していた。
「若っ!?」
前の男の攻撃を受けるのに必死な少女の後方から振り下ろされるそれを手早く手刀で叩き落す。
「うあっ!!」
そこに自分が駆け出したタイミングで瞬時にフォローに動いてくれていた門脇が飛び込んできて、その男の腕を掴み捻り上げて拘束した。
「ナイス!門脇っ!!」
上手い具合に連携が取れ桐生は声を上げると、今度は胸倉を掴まれている少女を庇うように間へと入り込み、掴んでいる男の手を弾くと、その顔面に一撃を食らわせた。男は後方へと吹っ飛び、地に倒れ伏すと、そのまま意識を手放した。
そうして、この騒動は幕を閉じたのである。
「やれやれ…」
桐生は大きな溜息を吐くと、最後の一撃を放ったことで未だに痺れている右手を小さく振った。そして、意外にも大人しくその場に留まっている少女へと向き直る。
実は、先程彼女を庇った時に逃げられないようにしっかりその腰をホールドしていたのだ。
今までにない近い距離で…というより、思い切り腰に手を回して抱えているような状態ではあるが、素直に自らの腕に収まったままでいるその少女へと視線を落とした。
少女は俯いていた。
こんなに至近距離にいるのに顔が見えない。体力を使い果たしてしまったのか、いつものように逃げる様子はないようだった。
とうとう、その素顔を知る時が来たのだ。桐生は緊張気味に声を掛けた。
「おい、お前…大丈夫か?」
すると、少女はビクリ…と小さく身体を揺らすと、ゆっくりと顔を上げた。
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