奇跡の少女

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ただ、上を向くだけの動作であるのに。桐生にとって、それはまるでスローモーションのように長い時のように感じていた。 前に掛かっていた長い髪がさらりと肩を流れる。そして現れる白い顔。伏せられた長い睫毛が上向くと同時に瞬くと、そこから大きな透き通るような瞳が覗いた。 「お…前…」 それは初めて会った時。一度だけ保健室で見た、忘れられない少女の顔だった。 毎日のように会ってはいるのに普段は分厚い眼鏡でその素顔は隠されてしまい、見ることは叶わない美しい瞳。それがこちらを真っ直ぐに見上げていた。 「如月…。お前、何で…」 「………」 彼女は表情を変えることなく無言でこちらを見上げている。 「何で…お前が、こんなことやってんだよ?」 別に彼女のことを何か知っている訳じゃない。ただの同じ学校に通う下級生というだけだ。 だが、信じられない気持ちで一杯だった。 あんな並外れたパワーを持つ、ある意味カリスマ的な存在の人物が…。今まで追い掛けても追い掛けても捕まえられなかったアイツが、まさかこんな普通の少女だったなんて。 桐生は静かに反応を待っていた。 この状況で彼女がどう出るのか。そして、こうして大人しくこの状況に留まっている以上は何かを語ってくれるものと思っていたのだ。 だが、紅葉は無言で桐生を見つめてくるだけだった。特に抵抗することもなく、静かに。 その、あまりに反応のない紅葉に、桐生は次第に怪訝な表情を浮かべる。 「…如月?」 そんな二人の様子を何となく遠巻きに眺めていた組の者たちは、不思議そうに桐生の周りに集まって来た。
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