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「ごめんなさいっ!圭ちゃんには…いつもいつも迷惑かけてばかりでっ。私…っ…」
本当は「ごめんなさい」じゃなくて「ありがとう」と伝えたかったのに。圭ちゃんを前に私の口から出て来た言葉は謝罪の言葉ばかりだった。だって、あんな圭ちゃんの顔を見てしまったら本当に申し訳なくて。負担を掛けてしまっている自覚が自分には嫌という程あるから。でも…。
『自己満足なんだよ』
桐生さんの言葉が頭に浮かぶ。
(もう、同じ間違いはしたくない。素直な気持ちを伝えるって決めたから…)
その時、圭が小さく笑ったのが聞こえて、紅葉は驚いて思わず顔を上げた。そこには先程までとは違う、優しく微笑む圭がいた。
「違うよ、紅葉。『迷惑』じゃなくて『心配』だよ」
「えっ…?」
「紅葉は迷惑なんかかけてない。いつだって大いに心配は掛けさせてくれるけどね」
そう言って少しだけ悪戯っぽく笑う圭ちゃんは、小さな頃から変わらない、いつもの穏やかな彼そのものだった。
いつだってそうだ。今まで殆ど二人で喧嘩なんてしたことはないけれど、何か私が言い難いことや上手く言葉が出てこない時に、圭ちゃんは必ず助け舟を出してくれた。それもさり気なく。優しい笑顔で…。
「本当に心配したんだよ。おばさんにも事情は説明して伝えてあるけど、ちゃんと帰ったら謝らないとね」
「うん…」
紅葉は小さく頷いた。
「じゃあ、帰ろう?紅葉…」
そう言って、再び歩き出すのを待っていてくれる圭に紅葉は「あのね…」と口を開いた。
「心配かけて本当にごめんなさい。でもね、圭ちゃんが来てくれて、私…嬉しかった」
「紅葉…」
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