君のために出来ること

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「本当のこと言うとね、暫く紅葉と話すことも学校で会うことさえもなくて、完全に避けられてるのかなって実は少し自信をなくしてたんだけど。でも、今日のは正直、ちょっと嬉しかった」 「うれし、かった…?」 紅葉は何のことを言っているのか解らず呆然と聞き返した。ここ暫く圭のことを避けていたのは事実なので、その点は少し心が痛んだけれど。 (それに、今日は圭ちゃんには迷惑しか掛けてない…) だが、圭は「うん」と頷くと、少しだけ照れたような笑顔を見せた。 「僕が呼んだら、紅葉…目を覚ましてくれたでしょう?」 「えっ?…う、うん…」 「桐生さんが言ってた。自分がいくら呼び掛けても全然目を覚まさなかったのに、僕が一声名を呼んだだけで紅葉が正気に戻ったって。悔しがってた桐生さんには申し訳ないとは思うけど、それが少し…嬉しかったんだ」 そう言って一旦言葉を区切ると。今度は笑みを収めて再び口を開いた。 「例えそれが、ただの幼馴染みのよしみ故であったとしても。少しくらいは紅葉の『特別』なんだって…。少しは自惚れても良いのかなって。ひとりで勝手に嬉しかったんだ」 「圭ちゃん…」 圭はそこまで言うと、静かに前を向いてしまった。 「歩き出そうか」と小さく呟き、紅葉の答えを待たずに再びゆっくり歩き出してしまったので、慌てて後を追う形になる。 『特別』 紅葉は考える。 そう、圭ちゃんの言う通り、圭ちゃんは自分にとって特別な存在だ。 もし圭ちゃんがあそこで私の名前を呼んでくれなかったら…。私は、また暴れていたかも知れない。何にしても、すぐに目を覚まして正気に戻ることは出来なかっただろう。
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