エピローグという名の日常

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でも、また今日も会えばダメ出しされてしまうのだろう。心底呆れた様子で声を掛けて来る立花さんを思い出して、心の中で苦笑した。 (一緒に居る桐生さんは、特に何も言わないのになぁ) 彼の態度は、あの一件があった後も今までと何ら変わりない。この格好に関しては初めて出会った時から知っていたし、今更感が強いのかも知れないけれど。 でも、きっと桐生さんは人のそういう見た目とか外見部分をあまり気にしない人なのかも知れない。人の本質部分を見据えているというか、見極めようとしているというか。 彼の身の上を知っている今だからこそそう思うのかも知れないけれど、人とは少し違う特別な環境で育ったことが彼をそうさせているのかも知れないと何となく感じていた。 (あの家に居た時の桐生さん、別人みたいだったもんね) 怒ってる顔は人一倍怖くて。良い意味で貫禄があって。そして組の殆どの人が自分より年上なのに皆に慕われている。懐が広くて、精神的に大人。そして、何より優しい人。 桐生さんには救われてばかりだ。 (未だにお世話になりっぱなしで本当に頭が上がらないけど…) そんなことを考えている間に家を出る時刻になり、鞄を手に取ると部屋を後にした。 階下に降りると、母がダイニングテーブルでゆっくりと珈琲を飲んでくつろいでいるところだった。廊下から顔を出すと、それに気付いた母と目が合う。 「あら、もう行く時間?」 「うん。行ってきます」 「いってらっしゃい。気を付けてね」 「はーい」 こんな朝のやり取りは、我が家では暫くなかったことだ。実は、先日のあの一件で散々心配を掛けてしまった私は、母を泣かせてしまったのだった。
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