エピローグという名の日常

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夢遊病による夜の出歩きは元々昔からあり、勿論母もそれは知っていたことではあった。が、父の事故後やむなく夜勤で働くようになってからは、そんな母に心配を掛けまいと自分は出来るだけその事実を隠してきたし、母自身も気には掛けながらも特に問題が起きていないことで、現在の状況に甘んじてしまっていたと話していた。 流石に今まで朝まで帰らなかったことなど一度もなかったし、出歩いたとしても家の周辺だろうと気楽に考えていたのかも知れない。実際、自分もそう思っていたのは確かだし。よくよく考えてみたら、意識のない中で出歩いていて確実に家に戻って来れるという確証など本当は何もないのだけれど。 でも、今回のことで母は少し考えを改め、夜勤を減らしたのだそうだ。週に二回は今まで通り夜間家を空けることにはなるが、日勤も入れることで、こうして顔を合わせる時間も僅かながら増えたのだ。 これは自分にとって嬉しい変化だった。 今まで寂しかったというのも少なからずあるけれど、何より頑張り過ぎの母の身体が心配だったから。 今回、母に心配を掛けてしまったことは申し訳ないと思う反面、結果的には良い方向へ動いてくれたので自分的には良かったと思っている。 (…そんなこと言ったらバチが当たっちゃうかもだけど) 沢山の人にあんなに迷惑掛けといて、呑気以外の何者でもない。 (圭ちゃんにも、本当に心配掛けちゃったし…) いつも通り靴を履いて玄関の扉を開ける。 すると。 「おはよう、紅葉」 家の前には既に圭ちゃんが壁に寄りかかるように立っていて、いつもの爽やかな笑顔で迎えてくれた。
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