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 ドアを開けた途端悲鳴をあげた雪平を無理矢理外に押し出して、鍵を閉めた。 「寒波がきてるらしいです。今日は雪が降るかもしれないとか」 「聞いてねぇぞ! こんな日にわざわざ外に連れ出すとか、お前は鬼か!」 「覚悟決めたんでしょ。行きましょう」 「クッソ、騙された」 「何も騙してないじゃないですか」 「珍しく甘やかしてくるから油断しちまった!」 「ちょろい」 「何か言ったか、南!」 「何も」  雪平の部屋はマンションの八階で、エレベーターで降りる。エントランスを出ると、冷たい風が吹きつけてきた。 「顔が痛い!」 「マスクしてくればよかったですね」 「外に出なけりゃよかった!」  ぶつぶつ言いながら一歩進んだ雪平が振り返る。 「そういや、どこ行くんだよ? 無駄に歩き回るなんて嫌だからな」 「喫茶店にでも行こうかと」 「南が入れるコーヒーでいいのに……」 「インスタントじゃないですか」 「なんでもいいんだよ」  ああクッソーと、機嫌の悪そうな声を出しながら雪平が歩き出して、南は苦笑して着いて行く。  雪平という名前なのだし、冬生まれなのだと思うのだが。夏生まれは暑さに強く、冬生まれは寒さに強いと、よく聞く気がするのに。
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