最終章

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 へらへら笑って応対する雪平を、平が笑いをこらえるような可笑しな顔で見てくる。 「雪平芳野君プレッシャーに弱いの? いつもしれっとライブに出てるように思ったのにぃ」 「うっせー」  世間が持つ雪平のイメージは、きっとテレビによく出ていた頃の「生意気な天才少年」だろう。その頃はあまり明け透けに笑わないようにしていたし、今はめったにテレビには出ない。だから少し、今の雪平とは乖離がある。  そのためファンでも友達でもない人間とどんな風に接すればいいか迷うこともあったが、南も桜田も「イメージって大切?」と首を傾げるものだから、馬鹿らしくなって気にするのをやめた。だいぶ素で接している。 「そろそろ準備してくる」  桜田が運んできたケーキを一口食べて紅茶を飲み、席を立つ。平に「行ってこーい」と軽く言われ、桜田はにこにこ笑って頷いた。  志岐はこっそりと裏口から入り、スタッフルームに隠れてもらっていた。元々狭い上に、ロッカーと、コンサート用の譜面台や楽器などで、二、三人入るのがぎりぎり、といったスペースしかない。こんなところしか隠れるところがなくて申し訳なかった。志岐が出演することは、店長と桜田以外誰も知らない。サプライズゲストということになっていた。アルバイトの南にも知らせていなかった。
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