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「悪いな。狭いところに隠れてもらって」
「大丈夫です。喉も温めてあります」
スツールに座っていた志岐は、そっと喉に手をあてて微笑む。
そのとき、スタッフルームのドアが開けられた。
「雪平さん? こんなところで何やって……」
南の声がして、振り返る。楽器を片付けに来たのだろう。来ると思っていた。
「よう、南。演奏よかったぞ」
「ありがとうございます……じゃなくて」
「志岐と南は知り合い?」
志岐に尋ねると、志岐は曖昧に頷く。
「ここに二回くらい来たことあって、そのとき一方的に見てるのと、桜田の家ですれ違ったことくらいはある。『南君』」
南は困惑しながら、雪平の手首を掴んで自分のほうを向かせた。
「雪平さん。どうして志岐さんと普通に接しているんですか。その人は、だって」
雪平の苦難の元凶だったのではないか。
南の言いたいことはわかる。だからこそだ。だからこそ、再会したのだ。
「不安、でした。雪平さんが桜田さんと会うこと、ここにしょっちゅう来ること。初めは、知らなかったんです。桜田さんの前の仕事のことを聞いても、ぴんとこなかった。だけど、桜田さんの家ですれ違って、気がついた。この人が、Ameだった人だって。それから、不安でした。いつか、志岐さんと出会ってしまうんじゃないかって」
「俺が、会いたいって言って、桜田に会わせてもらったんだ」
南が目を見開く。
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