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「どうして……なんでいつもいつも、平気な顔して会うんですか!?」
「いつもってなんだよ!」
「兄貴のときもじゃないですか! あんなに傷ついておいて、まるで忘れたみたいに会う!」
「忘れたわけじゃねーよ!」
「でもけろっと! 笑って会ってたじゃないですか!」
「けろっと会ってなんかない!」
南君、と静かな声を出したのは志岐だった。
「桜田から、だいたいのことは聞いてる。だったら、わかるだろ? 雪平さんがいろんなこと乗り越えて俺に会ってくれたのは、あんたがいたからだって。南君がいたから、この人はきっと、勇気が持てたんだ……と、思う」
最後のほうは自信がないように、小さな声になっていく。
そんな志岐の言葉を肯定するように、雪平は南の目をまっすぐに見て言う。
「南がいたから、前に進める。いつだって。行くぞ」
握られていた手首を離して、反対に南の手を握った。手を引いて、店内に向かって歩く。
「ちょっと待ってください、雪平さん。楽器をしまってから戻ります」
「いい。そのまま来い。それでこれ」
「え?」
戸惑う南にいったん足を止めた。そして、持っていた楽譜を渡す。
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