最終章

19/30
前へ
/250ページ
次へ
「どうして……なんでいつもいつも、平気な顔して会うんですか!?」 「いつもってなんだよ!」 「兄貴のときもじゃないですか! あんなに傷ついておいて、まるで忘れたみたいに会う!」 「忘れたわけじゃねーよ!」 「でもけろっと! 笑って会ってたじゃないですか!」 「けろっと会ってなんかない!」  南君、と静かな声を出したのは志岐だった。 「桜田から、だいたいのことは聞いてる。だったら、わかるだろ? 雪平さんがいろんなこと乗り越えて俺に会ってくれたのは、あんたがいたからだって。南君がいたから、この人はきっと、勇気が持てたんだ……と、思う」  最後のほうは自信がないように、小さな声になっていく。  そんな志岐の言葉を肯定するように、雪平は南の目をまっすぐに見て言う。 「南がいたから、前に進める。いつだって。行くぞ」  握られていた手首を離して、反対に南の手を握った。手を引いて、店内に向かって歩く。 「ちょっと待ってください、雪平さん。楽器をしまってから戻ります」 「いい。そのまま来い。それでこれ」 「え?」  戸惑う南にいったん足を止めた。そして、持っていた楽譜を渡す。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

380人が本棚に入れています
本棚に追加