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呼んでいる。
呼んでいる。
呼んでいる。
どうなってもいい。あの人が呼んでいるなら、行かないと。弱い人だから。脆い人だから。静かに見守ることもきっと、怖かったのだろう。
志岐と会うことだって怖かったはずだ。だって雪平のすべてだった音楽を、奪っていったのだから。それでも今、志岐天音とこうして一つの豊かな音楽を作り上げているのは、作り上げる勇気を持てたのは、本当に。
「俺がいるからって、思ってもいいですか……?」
小さく呟いて、南は足を踏み出した。
少しざわついたが、志岐の声に観客は再び引き戻される。雪平と志岐がこちらを見て微笑む。志岐は安心したように。雪平は安堵の中に、少しの恐怖が見える。南が大丈夫か心配しているのだろう。それに微かに頷いて、志岐と雪平の間に立っていた譜面台に楽譜を広げた。
志岐の声が響く。
“春を告げる花の名を”
フルートを構える。
春を告げる花ってなんだろう。あいにく、花の名前なんて詳しく知らない。イメージは、淡い色。ぐっと温かくなる前に春を告げる花は、きっとささやかにひっそりと咲いているんじゃないだろうか。
志岐の声が伸びる。奇麗なビブラート。この特別な音響設備もない店で、よく響くものだ。雪平のピアノと合わさって、まるで新しい楽器……雪平の声のようだと思った。
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