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◇
「疲れたー!」
雪平がベッドに勢いよく倒れ込む。
「打ち上げも最後までいたし、疲れましたね。今日はもう寝ちゃったほうがいいですよ」
布団をかぶせると、雪平は不満そうな顔をした。
「やらねーの?」
「疲れてるでしょう?」
「疲れてるときのほうが、って言うだろー?」
雪平が両腕を伸ばして、にっと笑う。
……この笑顔に弱い。
逆らわずに片足をベッドについて、腕に上半身を預けると雪平が抱いてくれる。温かくて、泣きそうになる。
「よーしよーし。頑張ったなぁ。いい子だなぁ」
頭を撫でられる。優しく、柔らかく、何度も。セックスする気なんてないんじゃないだろうか。
俺は頑張ったのだろうか。頑張ったのは、雪平さんじゃないか。志岐天音の曲を作ることは、きっと怖かっただろうに。
「怖くなかったんですか……?」
「んー? あ、志岐のこと? 怖かったよ。でも崩れたら、また少しずつ積み重ねていけばいいって、もうわかってるから」
「時間がかかっても?」
「うん。だって俺は、きっと死ぬまで音楽と付き合っていくから。その間にそういう時期があってもいいだろ」
いいのかな。全然こちらを向いてくれない音楽を、追い続けてもいいのかな。いつか辿り着けるのかな。そんなのわからないけれど。
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