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「不思議です。あんなに苦しかったのに、今は苦しくない」
こういう気持ちは、なんて言うんだろう。凪いでいる。穏やかで、自分が歩む道をしっかりと一歩一歩踏みしめて進んでいくことに、誇りを持つことができる。
「俺も、今みたいな時期があってもいいのかなって、思えます。だって、楽しかったから。ちゃんと楽しめた。また、これを体験したいって、思えた」
「へへ、よかったよかった」
「前を向いて、足掻けます」
「前向いてなら、いくらでも足掻け」
雪平の顔が見たくて、起き上がる。目が合う。
「よかったぁ」
雪平が心底安心したように、ふにゃっと笑う。その目尻からぽろっと雫が零れて、胸が詰まる。
「全部、俺のためですか? 志岐さんの歌を作ったも、今日演奏したのも」
「全部じゃねーよ。自分のためもある。もう俺はどうなったとしても自分を見限らないって、自分にも南にも証明したかった」
「かっこいい」
「お?」
ベッドに上がり、雪平に覆いかぶさる。
「南もかっこよかった。お前すっげー上手くなったな。初見であれだけ吹けるとは思わなかった」
「雪平さんと志岐さんに引っ張られたから……って、吹けると思わないのにいきなり舞台に引っ張り出すってどうなんですか」
「ははっ、まー、結果オーライ?」
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