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「うあ」
強く抱きしめられながら、雪平の小さな悲鳴を聞く。
「満足か……? 南。今お前俺の中に入ってるぞー」
「……はい」
なんで泣きそうなんだろう。いつもいつも、雪平と繋がることができた喜びに泣きそうになるけど、今日は、耐えられそうもない。
「南……? 泣いてんの……?」
「ごめんなさい」
「謝るなよこんな場面で。不吉だから」
くすくすと笑って、背中をさすってくれる。
「なんで泣いてんの?」
だって、雪平さんが愛しいから。
あんなに憶病なのに、あんなに傷つきやすいのに、叫んで泣いてばかりだったのに、つまずいて動けなくなりそうになる南に、春を見せてくれるから。残酷な音楽を知りながらも、前に進むことの美しさを見せてくれるから。
「一緒にいてください」
「もちろん。一緒だよ。あきるほどべったりしてやるから。あきても離してやんないから」
きゅっと締め付けられて南が息を呑むと、雪平はいたずらっぽく笑った。
「はい……はい……っ、一緒に、いてください。見ててください」
これから歩む道を、近くで。あなたが見ていてくれるなら、きっと、音楽に恋をしながら、生きていける。
お返しとばかりに腰を動かすと、雪平が嬉しそうに高い声で一つ喘いだ。顔を見合わせて笑った。
──絵本のような楽譜を、くれた。雪平は言う。南の音をイメージして書いたと。
それは春を告げる花なのだと。
春を告げる花 終
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