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「お前ね……あんままっすぐ目ぇ見てこないで」
「からかっておいてなんですか」
身体を離した南にホッとしている様子の雪平に少し苛ついて、スウェットを一気に引き摺り下ろした。
「ぎゃー!」
「ほら寒いでしょ。早く着てください」
色気のかけらもなく、渋々といったふうにジーンズを履いた雪平に、南は背中を向けてしゃがむ。
「南?」
「玄関までの床が寒いんでしょ」
背中を向けているから、雪平がどんな顔をしているかわからない。しかし、クスッと笑って体重を預けてきたから、嫌ではないらしいとわかる。成人男性としては軽い方だと思う雪平の重みを感じることが、南にはとても嬉しいことに思えて、気がつけば口元が緩んでいた。
「南、あったけえね」
立ち上がったときに、少し怖がるように腕に力を込めて抱きついてきた雪平が言った。吐息を耳に感じて、頭がくらくらした。
玄関に到着して下ろすと、雪平は名残惜しそうに離れる。苦笑して、コートを着せてマフラーをぐるぐる巻く。頭にはニットの帽子をかぶせた。
「ここまで来れたじゃないですか。えらいえらい」
帽子の上から頭を撫でると、雪平はむくれる。
「帽子かぶす前によしよししろよ」
「え」
「ほら、ここまで来たら俺も覚悟決めた。行くぞ……って寒い! なんだこれ寒い!」
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