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小さい頃からちやほやされて育った。別に自分が望んだわけじゃい。親の力と与えられたこの外見だ。言いよってくるやつらの本音が透けて見える、取り入っておけばきっとこの先プラスになる。連れて歩けば、絵になる。分かっている誰も本当の俺を見ようとはしない。そして誰もが本当に取り入りたいのは兄だと言うことも誰よりよく知っている。
自己卑下はしない、逆に利用してやればいいそう思っていた。跪いて慈悲を乞えば、そうすればそばに置いてやるそう思ってきた。
「ミラーさん、すみませんがこの前のエッセイが出ていないとトレバー先生から伝言を受け取りました」
「は?エッセイって、自由課題だったはずだけど?」
「ええ、でも先生には伝えるようにと、それだけ言われたので」
あの教師は面倒だ。他の教師陣は親に遠慮して何も言ってこないが、あいつだけは違う、いちいち食って掛かってくる。兄の担任だった若い教師が、なぜこんなにも目の敵にしてくるのか分からない。そして、伝言を持って来たのがロイだという事も気に入らない。なぜよりによって、こいつに伝言を頼んだのだろう。
「これから乗馬のレッスンだ、時間がない。君が代わりに書いて出してくれればいいだろう」
「それは駄目です。不正の片棒を担ぐわけにはいきません」
何だろうこいつの言葉ひとつひとつに、棘がある気がする。俺はこいつに嫌われているのだろうか。
「不正って、酷い言い方だな」
「じゃあ、こうしましょう。私が、エッセイが仕上がるまでお付き合いします。そして乗馬のレッスン、私がお手伝いします」
「は?」
「乗馬、得意ですから。ちなみにエッセイも得意です」
何を言っているのか分からない男はいきなり人の腕を掴むとぐいと引っ張って図書館へ向けて歩き出した。そして、この腹の立つ男の一挙一動全てが、理解不能だと思いつつも自分に媚びない男を見るのは本当に久しぶりだった。
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