第一章

3/3
前へ
/29ページ
次へ
   「だから、エッセイなんて自由課題なんだから適当に書いて出すんだよ」  「携帯から手を離してください。それは駄目です」  校内で携帯が禁止されているのは、知っているが特別扱いは当然だ。それなのに、ロイは譲らない。取り上げた携帯の電源を勝手に切ると、自分のポケットにしまい込んだ。  「預からせていただきます」  「今から本を開いて調べて書くのか?だとしたら時間がかかり過ぎる」  結局、やらなくてもいいはずのエッセイを二時間かけて書かされた。ようやく解放されると思い立ち上がると、ロイが同じタイミングで立ち上がった。  「まだついて来るのか?その携帯は学校にでも届け出ろよ。明日には自動的に手元にもどってくるだけだ」  「今日の乗馬が終わるまで私が預かりましょう」  「は?」  「乗馬、約束通りお付き合い致します」  なぜか交わしたはずのない約束を振りかざして、ロイが並んで歩いてくる。乗馬で敵うわけがないのに「置いてけぼりにしてやる」そう思うが声にしないで、微笑みかける。  「そうか、じゃあ君のお手並みを拝見させていただこうかな」  厩舎に到着すると、いつもの厩務員を探すが見当たらない。予定の時間に二時間も遅れてしまった。きっとまた気まぐれで帰ったとでも思われてしまったのかもしれない。  「少し遠乗りしたいんだが、この馬を借りる」  そこにいる若い調教師に声をかけた。  「あっ、ミラー様。お待ちください、今準備いたします」  どたどたと落ち着きなく動く厩務員の横をすっと通り抜けるロイがいた。  「よしよし、いい子だ。今日、一緒に少しだけ走ろうな。お前に馬具を付けさせてもらうけれど、大人しくしていてくれるかい?」  馬に話しかけながら落ち着いて準備を進めている。その姿を見た途端、何故か腹が立った。  「それ、寄こせ。自分でやる」  落ち着きのない厩務員から馬具を取り上げると、馬の背に放り上げて乗せた。その様子を見てロイが笑いかけてきた。  「そうですね、何でもご自分でなさった方がいいのです」  ああ、一体何の感情なのだろう。理由のわからない苛々が鳩尾のところから、上がってくるのだ。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加