第二章

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 下唇を軽く噛むその姿はまるで小さい傷ついた子どものようだった。小さい頃にこんな茂みのところで転んだあの日を思い出す。あの時と同じようにブラックベリーの茂みには、赤から黒へと色を変え完熟した小さい実がたくさんついている。それを一つ摘み取る。  「口を開けてください、内緒ですよ」  ウィンクすると、その甘く熟した香り高い実を「は?」と驚いて言葉を発したスチュアートの口の中へと放り込んだ。それは転んで泣きそうになった時に乳母がやってくれたことだった。「お父様には内緒ですよ、特別です」  なぜ同じことをスチュアートにしたのか分からない、どうしても甘やかしてやりたいと今まで誰にも抱いたことのない感情がどこかから溢れてこぼれた。
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