第一話 紳士と黒猫

10/11
前へ
/17ページ
次へ
あゆみは目の前の獲物に気づき、レオンに飛びかかろうとする。 次の瞬間、大きな雷が西園寺家の真上に落ちた。 巨大な音と光が同時に2人の居た屋根裏部屋にも届く。 そのため、あゆみの行動に対するレオンの反応が遅れた。 しかし、レオンが『箱庭のモナ・リザ』に慌てて意識を戻すも、特に異常はない。 ふと、腰に違和感を覚え、彼は下を向いた。 するとそこには、涙目をしてがたがたと震えたあゆみの姿があった。 彼女は必死になって、レオンの腰にしがみついているのだ。 「ふぇ……」 今にも泣き出しそうな怪盗キティ。 そこに、再び雷が轟く。 すると、彼女はより一層震え上がり、更にきつくレオンにしがみついてくる。 その様子に、レオンは堪らず笑ってしまう。 「あはは、大怪盗である子猫ちゃんはどうやら雷が苦手らしい。くくっ」 髪をくしゃりと握って笑う彼の姿はどこか魅惑的だった。 あゆみは一瞬その姿に見惚れるも、首をぶんぶんと横に振る。 その勢いで、あゆみの身体についていた泥がそこら中に飛び散った。 それを見たレオンは、この暗闇の中、どこに潜んでいるかも分からない榎本を呼んだ。 「榎本、彼女を綺麗にしてあげてくれ」 「かしこまりました」 あゆみは恐怖に震えながらも、自分が敵に情けをかけられていることに気づく。 そのことに誇りを傷つけられたあゆみは、出来うる限りの抵抗を試みた。 雷のないときを見計らい、あゆみはレオンから離れ、そのまま屋根裏部屋を飛び出す。 彼女は雷の鳴る度に、何かしらにぶつかりながらも、長い長い西園寺家の廊下を駆け抜けていった。 「あ、こら! 待ちなさい!」 レオンと榎本があゆみを追いかける。 こうして、3人の鬼ごっこは随分と夜遅くまで続いたのだった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加