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煙草に火を点けた後、小田は一枚の紙を懐から取り出した。
「こんなもんが警察に届いたんだよ」
それは怪盗キティの予告状だった。
彼女のトレードマークである赤い子猫の印が文章の末尾につけられている。
“この度、開催されるオークションの目玉商品『セラフィの栄光』を頂戴するわ”
予告状にはそう書かれていた。
あゆみは予告状を一瞥すると、不可解な表情をした。
そのことに気が付いたのはレオンだけであった。
「まぁ、こういう訳だからよ。『セラフィの栄光』が出展されるオークションに招待される知人を頼れ、とお偉方から言われたんだ。んで、真っ先にここに来てみれば、幸運にもお前が招待状を持っていたのさ。何だか、よく出来た話だよなぁ」
「……全く、偶然とは思えないね」
レオンは難しい顔をしながらそう答えた。
「んじゃ、飛行機のチケット用意しておけよ。――行くぞ、真鍋」
「は、はいっ」
小田はそれだけ伝え、ほとんど空気となっていた真鍋を引き連れ、西園寺家を後にしたのだった。
2人の姿が完全に西園寺家の敷地から出て行ったのを確認したのち、レオンはあゆみに問いかける。
「これは君の仕業かい?」
「まさか! 予告状は似ているけど、偽物ね。本物と比べたら一目瞭然だけど、子猫のスタンプの大きさが本物より小さいわ。私はいつだって自己主張が強いのよ。あと、怪盗稼業は今のところお休み中だし」
えっへん、と胸を張って誇らしげなあゆみにレオンはそうかと頷いた。
「ま、心当たりはあるんだけどね…」
あゆみはレオンにも聞こえないくらいの小さな声で呟くと、窓の外をちらりと一瞥する。
針葉樹の葉が数枚ひらりひらりと風に揺られて舞い降りているばかりであった。
そこに誰かが居た痕跡はほとんどなく、けれどもあゆみはある人物の気配をしっかりと感じ取った。
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