第一話 紳士と黒猫

8/11
前へ
/17ページ
次へ
そんなカオス極まるこの部屋に、真鍋の声が落とされる。 「あの、すみません。猫がいないって聞こえてきたんですけど……」 「あぁ、ごめんね。本当は猫を拾ったわけじゃないんだ」 「おい、どういうことだ?」 「さっきから猫猫って何の話よ?」 レオンがあゆみを見て、続ける。 「本当に拾ったのは、彼女のことなんだ。名前はあゆみ。だけど、それ以外の事は何も覚えていないんだって」 彼の説明に小田と真鍋が息を呑む。 あゆみはレオンに視線を投げかけるも、口は開かない。 小田と真鍋の顔が次第に赤く染まってゆく。 “拾う”という単語に一体何を想像したのやら。 レオンはどぎまぎしている2人を生暖かい目で見守り、あゆみは新しい煙草を取り出して、いつの間にか煙草を吸っていた。 「とにかく、そういうことだからさ。今日は帰ってもらってもいいかな?」 レオンの言葉にあゆみも便乗する。 「そうそう、早く帰りなよ」 執事の榎本は扉の横で控えている。 「あ、あぁ。末永くお幸せにな」 「こ、今夜も警戒だけは怠らないようにしてください! お、お、お幸せに」 榎本と小田、真鍋が客間から出てゆく。 洋館自体からも出て行った刑事2人が帰ってゆく。 帰り際、小田が先ほどの部屋を見上げ、独り言ちた。 「まさか、な……」 「何か言いましたか?」 「いや、なんでもねーよ」 去っていく2人の後ろ姿をバルコニーからレオンもまた見ていた。 彼バルコニーから客間へ戻ると、あゆみがベッドに寝そべり、煙草をふかしている。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加