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「やーっと帰ったわね。それで? なんであんな嘘ついたのよ。私が記憶喪失なんて。それに、あの人たち確実に私たちのこと勘違いしていったわよ」
「うーん、どうしてだろうね」
レオンは柔和な笑顔ではぐらかすも、あゆみは嫌悪の表情を浮かべる。
「私、その笑顔嫌いだわ」
「そう、ありがとう」
「会話が噛み合ってないわよ」
レオンはあゆみの指から再び煙草を取り上げる。
「それよりも、また吸っているじゃないか。『箱庭のモナ・リザ』を手に入れられなかったことがそんなに悔しいのかい?」
あゆみはふてくされて、毛布の中に入り込む。
レオンは布団の上から彼女の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「夜ご飯になったら榎本を呼びにこさせるよ」
それだけ告げて、レオンは客間を出ていった。
そして、自ら閉じた客間の扉にもたれかかり、先程まであゆみが吸っていた煙草を1度だけ吸う。
「まったく……とんだ黒猫を拾ってしまったみたいだ……」
レオンは昨夜のことを思い返していた。
あゆみと出会った夜のことを。
土砂降りの雨の中、西園寺家の屋根の上にあゆみはひっそりと身を潜めていた。
「この雨の中じゃあ、『箱庭のモナ・リザ』も無事に持って帰られるかどうか……」
あゆみは“悪魔の微笑み”と呼ばれる名画『箱庭のモナ・リザ』を思い浮かべ、うっとりと目を細めた。
「あ~、だけど『箱庭のモナ・リザ』をもし手にすることができたのなら、想像もできないほど幸せなんだろうなぁ」
そのとき、あゆみの足元にあった隠し扉の屋根が内側に開いた。
突然、足場を失ったあゆみはびっくりした顔のまま、西園寺家の洋館へと落ちていく。
どしん! と大きな音と共に屋根裏部屋に落ちたあゆみを出迎えたのは、西園寺レオンその人であった。
彼は冷ややかな笑みを浮かべ、
「やぁ、子猫ちゃんの探しているものはこれかな?」
『箱庭のモナ・リザ』を手に掲げた。
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