雪と足跡

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雪と足跡

彼女は走っていた。 もうどれくらい走ったのだろう。息がはずんで、それに合わせて肩が上下する。喉の奥が焼けるように熱い。 なぜ走るのか。 逃げるためだ。逃げるために走っている。 はぁはぁと荒く息をする。 では何から逃げているのか。 何から逃げているのだっけ、頭の隅で考える。よく分からない。私は何から逃げているのだったっけ。 わからなくても、逃げなければならないと思う。このまま、逃げ切らなければならないと思う。 なんでだっけ、なんでだっけ。心の中で自問しながら雪の中を走る。 足が冷えきっていて、もはや感覚などない。いつから走っていたのだったっけ、なんで走っているのだったっけ。 後ろを振り向くことはできない。今が夜でよかった。雪が積もった地面に残る足跡は夜の闇に紛れて見えない。 暗闇の中にぼんやりと灯りが見える。あれは家だろうか。家なら、誰かいるのだろうか。誰かいるのなら、私のことも迎え入れてくれるのだろうか。 あたりに並ぶマンションの灯りは自分の存在を拒絶するように一つも灯っていない。その中でぼんやりと光るその灯りだけは自分を受け入れてくれるように思えた。
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