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雪が積もっている、彼は窓の外を眺めながら思った。こんなに暗いのに、それはわかる。
不思議だと、思った。雪が音を吸収しているせいで、しん……と静まり返った景色が暗闇の中に広がっている。あたりの家々が明かりをつけていないせいでなおさらそれが顕著だ。
不意に、自分が拒絶されているような居心地の悪さを感じる。もう寝るか、と一人でつぶやいて自嘲的に笑った。
そのとき、ドンドンとドアを蹴る音がした。叩くではなく蹴る音だと思ったのは音が鈍かったからだ。彼はびくりと肩を震わせ、電気のスイッチに触れた指を離す。そしてドアを凝視した。
「……んだよ、こんな時間に」
時計を見ると夜中の3時だった。本当に何なんだ。こんな時間に誰だ。
出るべきか。出ないべきか。こんな時間に人の家のドアを蹴るなんて只者ではないのは確かだ。迷っているうちにもう一度ドアを蹴る音がする。なんだか腹が立ってきた。
冷たい床を歩いてドアの方へ向かう。ギシギシと床がきしむ。
「はい……」
思い切り不機嫌を装ってドアを開ける。
嗅ぎなれない臭いがした。血の臭いだ。
「一晩だけ、泊めてくれないか」
こちらが何を言うよりも早く、か細い少女の声が聞こえる。あっけにとられている間にドアがバタンと閉じる。冷たい空気が頬をなでた。
「一晩だけでいいんだ」
震える声が続く。むせ返るような血の臭いに吐き気がこみ上げる。どうしようかと悩んでいると暗闇に目が慣れてきた。視線をさまよわせて下に落とすと、少女の足元が見えた。
「……あぁ、どうぞ」
答えられずにはいられなかった。小刻みに震える少女は雪の中を走ってきたのだろうと思う。少女の裸足から出血しているのがわかった。
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