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「シャワーくらいなら貸してやるよ」
彼は言いながら少女にバスルームを指示し、先ほど切った暖房を再び入れる。こうこうと音を立てて熱風が吹き出した。彼は押入れから予備の毛布を引っ張り出す。
彼女は白いワンピースを着ていた。
タオルを持っていくついでにそのワンピースに触れる。冷たく濡れているそのワンピースは内側に手を入れるとそれが透けて見えてしまうほどに薄い素材でできている。
こんな真冬にこんなに薄いワンピース一枚で裸足で吹雪いている外を走っていたというのか。
どうかしてる、と彼はひとりごち、脱衣所を出てリビングに戻る。
ソファに座り、テレビをつける。面白くもない深夜番組ばかりだ。何が面白くてこんなに笑っているのか。小さくため息をついて、リモコンでチャンネルを変えていく。
後ろでガラガラと引き戸が開く音がした。彼は振り返る。部屋が寒いせいで温まった彼女の体から湯気が立つのが見える。彼女は無表情でテレビをちらりと眺めた。それから彼の顔を見る。
「助かった。ありがとう」
彼は頷くことで答える。彼女はゆっくりと歩いて彼の隣に座った。ぎし、とソファがきしんで心なしか彼の座席も沈む。彼女はまた薄いワンピースを身にまとっている。
「テレビ、消していたほうが身のためだぞ」
彼女は小さな声で言いながらリモコンの赤いボタンを押した。
プツッとにぎやかさが途絶えて部屋に再び静けさが広がる。彼女の静かな呼吸も、自分の鼓動も、静かな部屋に響き渡ってしまいそうで彼は窓の方に視線をやった。
カーテン開けっ放しだったなぁ、と彼はソファから立ち上がってシャッとカーテンを閉めた。ちらりと向こう側で赤い光が見えたような気がする。
「ベッド、使っていいよ。俺はソファで眠るから」
ソファからこちらをじっと見つめる彼女にそう告げると彼女は表情を崩さないまま静かに首を横に振った。
「そこまで気を回してもらわなくても結構だ」
そっけない言い方に一瞬ひるむ。
「寒いでしょ、ベッド使っていいよ」
彼がもう一度言うと、彼女は眉根を寄せた。
「部屋の主人をよそにそんな大層な真似できるわけないだろう?」
じゃあ部屋には上り込めるのか、と言いそうになって、彼女のしもやけで赤くなったつま先に視線がいく。ふう、とため息をついてから
「じゃあ一緒に寝る?」
冗談で言ったつもりだったが、彼女は頷いた。
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