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言ってしまったのは自分だ。今更冗談と言えるような雰囲気でもないし、冗談だといえば彼女はベッドで眠らなくなるだろう。
こんな少女をソファで寝かせて自分はベッドだなんてそんな真似できない。
もうすぐ4時になる。一晩といえど少しのあいだだけだ。
もぞもぞとベッドに潜り込む。彼女はソファに座ったままジッとこちらを見ている。
「ほら」
声をかけると、おずおずとこちらに歩み寄る。野生の動物を相手にしているようだなと思った。
そして、ふと思う。むせ返るような血の臭いがしなくなっている。
「あのさ」
聞いてもいいのだろうか。彼女はここから逃げてしまうのではないか。彼女は立ち止まって彼の次の言葉を待っている。聞くのは、ためらわれた。
「……いや、なんでもない。寒いでしょ、おいで」
彼女はしばらくジッとこちらを伺っていたが渋々ベッドに潜り込んでくる。彼女の足が彼の足に触れた。驚くほどに冷たい足。氷のようだと思った。本当に生きている人間の温度か。
「あんた、あったかいな」
彼女はほうっと息を吐き、安心したように彼の胸に顔を埋める。彼女の呼吸する音、彼の小さな笑い声、すべてが振り続ける雪に吸収されていく。
静かな夜だった。
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