雪と足跡

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ふと目が覚める。時計を確認すると6時前だった。まだ外は暗い。冬の朝は明けるのが遅いのだ。 ガタン、と物音がした。彼女が眠っていたはずの場所にはもう彼女はいない。 彼はゆっくりと上体を起こして、周りを見る。今の物音は? 違う、私じゃない。と小さく呟いた彼女はテレビの前に立っている。違う、違うと壊れたCDラジカセのように繰り返す彼女の顔は蒼白だ。 先ほどの物音は彼女がテレビのリモコンを取り落としたものだと気がつく。彼女は彼が目覚めたのをちらりと見た。そして、昨晩のように震える声で 「世話になった」 それだけ言うと部屋を飛び出す。逃げるように玄関に駆けていく。何が何だかわからないまま彼は玄関まで彼女を追いかける。どうしたのかと叫びながら彼女の腕を掴むと振りほどかれた。 「逃がしてくれ!逃げないと!頼むから!!」 不意に、思い切り突き飛ばされる。咄嗟に対応できず、彼はその場に強かに腰を打ち付けた。 一瞬、彼女は泣き出しそうな顔でこちらを振り返った。しかし次の瞬間には裸足のまま彼女は外に飛び出していく。 雪は今も振り続いている。 吹雪で彼女の姿が見えなくなるまで見送ったあと、リビングに戻った。 なんだったんだろう、心の内でつぶやきながらチャンネルを変える。 殺人事件です、と美人のニュースキャスターが切羽詰った声で告げるのが聞こえた。チャンネルを変える手を止めた。19歳の少女が、と続く。画面に出てきた容疑者の写真に唖然とした。 慌てて玄関に向かい、急いで靴を履く。吹雪で前が見えない。 じゃあ昨日の赤い光は、彼女は私じゃないと言ってはいなかったか、あぁでも昨日のむせ返るような血の臭いも……。 もしかしたら今追いかければ足跡が残っているかもしれない。もしかしたら、 足跡は雪に埋もれてしまっていた。
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