雪と足跡

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彼女は走っていた。 もうどれくらい走ったのだろう。息がはずんで、それに合わせて肩が上下する。喉の奥が焼けるように熱い。 なぜ走るのか。 逃げるためだ。逃げるために走っている。 はぁはぁと荒く息をする。 逃げなければ、逃げなければ。足が痛い。足が痛いよ。頬を涙が伝う。私は何をしたのだったっけ。私はなぜ逃げているのだったっけ。 最後の夜を誰かと過ごせてよかった。最後に人の温かさを胸に焼き付けられてよかった。 雪が降っていてよかった、と思う。このまま降り続けば足跡を隠してくれる。このまま倒れてしまえば私ごと隠してくれる。 どれくらい走ったか。もう限界だ。あたりに民家はない。ここならば、と思う。 仰向けに倒れこんだ。雪の冷たさを体全体で感じる。 灰色の空から埃が降ってくるみたいだ。最初は頬に当たると熱で溶けていた雪がだんだんと顔の上に降り積もる。体が冷え切っていくのを感じる。だんだんと息苦しくなり、意識が薄れていく。 あの人は温かかったなと、こぼした涙は雪の下に埋もれた。 雪は降り止まない。
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