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「死んだらそのどれも見ることは叶わない」
その言葉に、私はハッとする。
ここに来るまでは、正直一目だけでも、一度だけでいいから見ておきたい。そう思った。
でも、今はこの夜空いっぱいに広がるオーロラをいつまでも見ていたい…。そう思っていた。
心臓がどきどきしている。
「それはあまりにももったいないことだと…、そう思っている」
「そう、ですね。そうなのかも」
自分に言い聞かせるかのように、私は無意識にそうつぶやいた。
こんな美しい景色が世の中にはまだ存在するのだと。そう思うと、もう少し生きてみるのも悪くないのかもしれない。
私の中に、不思議とそんな希望が灯った気がする。
「あの…」
私は隣で空を仰ぐ男の人を見る。
「ありがとうございます。今夜、この場所に連れてきてくれて…」
「…この先の人生を、お前は悲観するか?」
少しの間の後、男の人は聞き覚えのある質問をよこした。私は少しだけ考えてからその答えを口にする。
「わからない…。でも、今はそう思わない」
「くく…っ」
笠の奥から低い笑いが聞こえた気がする。
頭上に広がる星空には、壮大なオーロラが揺らめいていて、当分は消える気配はない。
おそらくだれもいないであろうこの場所で、私たち二人はいつまでもオーロラを見続けていた。
***
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