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「どちらの目的でも、この森に入ってくる輩は大抵が死ぬ。この森は人間が嫌いだからな、吹雪と寒さで殺してしまうんだ。そうした人間は、オレが喰って処理している」
「…じゃあ私のことも、食べるつもりだったの?」
そう聞けば男の人は黙って顔を背ける。
別にいいよ、食べても。そうつぶやくと、男の人がまたため息をついた気がする。
「稀に息のある人間も見つけるが、その時はこうして看病してやっている。だが、それも一定の時間までだ。人間の面倒など荷が重いんでね。だからそれを過ぎた時は…」
「…そう」
その言葉で察した。あと少し目が覚めるのが遅ければ、私も死んでいたのだろう。
そして、今までこの森に侵入して生きて出られた人など、たぶんいないのだと思った。
何となくだけど、この人の空気からそんな気がしたのだ。
「お前…、森にも殺されずオレにも喰われず二度も命拾いしたんだ。もう少し生きてみようとは思わないのか?」
「私は先日祖母を亡くしました。たった一人の家族だったのに。両親も兄弟もいない。これから先、長い時間をひとりぼっちで生きていくなんて…、そんなの、考えたくない」
「自分の人生を悲観するか」
私の話に男の人がそうつぶやいた。
顔が見えないからわからないけど、呆れているんだろうか?そんな気がした。
でもどう思われようと、今の私には生きる希望なんて持てそうになかったのだ。
「…お前、オーロラ見たことあるか?」
「え…」
唐突にそう聞かれ、私は首を横に振る。すると男の人は言った。
「この村はオーロラが見えることで有名だ。それを目的に訪れる旅人も多い。人間の間では、死ぬまでに一度は見ておきたいものなんだろう?」
「…見れることなら、見たいけど」
私は弱弱しく言った。
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