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オーロラ――。
森で気を失う直前、心のどこかに引っかっかっていた。せめてきれいなものを見てから死にたい、と。
たしかにオーロラは、人生において死ぬまでに見ておきたいものだとはよく聞いていた。
そしてその思いは私の中にも存在したようで、どうせ死ぬのなら一目だけでもそれを見ておきたい。そう思っていた。
「この森の奥には、オレしか知らないオーロラの観測地がある。お望みなら案内してやろう。もしそれでも、本当に死に急ぐというのなら…」
男の人は私に目線を合わせるようにして身を乗り出した。そして私の首に片手をかけるようにして触れる。その手は大きくて、氷のように冷たかった。
「その時は、お前を殺して喰ってやる」
「…案内して下さい」
暖炉の燃え木の弾ける音がやけに響いた。一瞬だけ、生きた心地がしなかった。
***
そのオーロラが見られるという場所まで、私は男の人と共にスノーモビルで深夜の森を突き進んでいる。
吹雪はすっかりおさまっていて、あんなに荒れていた森がウソのように、今ではひっそりと静まり返っている。
「着いたぞ」
エンジンを切る男の人に、私はぼそりと言った。
「あなた、運転雑…」
ここまでずいぶんな距離を進んできたと思う。
その所々で急カーブや急発進、道から外れ森の木々に突っ込んで障害物を飛び越えたりと、かなり荒々しいものだった。
絶叫系のアトラクションにでも乗っているかのような、そんな感じだ。
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