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「…機械は苦手だ。トナカイや犬ぞりとの方が相性が良い。移動の際はほとんどそちらを使うんでな」
男の人はそう言って、早く降りろと私に促した。言い訳っぽいもの言いは少しカチンときているのだろう。
でもトナカイや犬ぞりがあるのなら、そっちにも乗ってみたい気がした。
スノーモビルも初めて乗ったけど、まあまあ楽しかったな。なんて、そんなことはこの人の前では言わないけど。
辺りには白いもみの木が立ち並んでいて、見下ろされているようだった。上を見上げれば漆黒の空が開けていて、雲が流れていない分、星がとてもよく見える。
「オーロラが見られる条件は、天気に恵まれることだ。曇っていたり、雪や雨が降るとそれらに遮られて見ることはできない。この分だと、その心配はなさそうだ」
男の人が淡々と説明する。そして近くにあった小屋の扉を開けた。
「入れ。飲み物でも用意してやる」
小屋の中は意外と広く、うっすらと埃をかぶっているもののすっきりと整えられていた。男の人が大きな暖炉に火をつけると、少しずつ暖かくなっていく。
「ほれ」
すると男の人からマグカップを渡された。
私の手にちょうど収まるそれは木をくり抜いて作られたもので、素朴で温かみのあるカップだった。
中身はというと、薄暗くてよくわからないが、何となく赤黒くてどろりとした液体が入っている。
「え…」
私は訝しげに男の人を見る。嫌なものが頭をよぎったからだ。
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