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「…ただのラズベリー茶だ」
すると私の想像したものを察したようで、男の人が少し面倒くさそうにつぶやいた。
それを聞いてもいまいち信じられない私は、おそるおそるカップの中身に口を付けた。
(あ…)
おいしい。
ちょっと酸味があるけど、甘くておいしいふつうのお茶だ。
こんな飲み物があるなんて、知らなかったな。
淹れたてのラズベリー茶は不思議な香りを漂わせ、芯まで冷えた私の身体を温めてくれるかのようだった。
(……)
ほんの少しだけ、心に余裕ができた気がした。
そして私は、ふと思ったことを口にする。
「あなたはいつから…、この森に住んでいるの?」
「覚えてない」
「…ここから、出ないの?」
「だったらどうする」
これ以上は聞くのをやめた。私は再びカップのお茶を口に含む。
すると男の人が立ち上がり、のそりと小屋の外へ出て行った。
聞いてはいけないことだったのだろうか――。
取り残された私は、一人考える。
あの人は、もうずっと昔からこの森にいるのだろう。そう直感した。
そして同時に、ここから出られないのだとも…。
(あの人も、いろいろあるのかな…)
少なくとも私はそう感じた。
小屋の中がいい具合に暖かくなった時、男の人が再び入ってきて私を見る。
「おい、外…」
くい、とあごで扉の外を示すと、察した私はすぐに立ち上がり小屋の外へ出た。
冷たい空気が再び身体を包んだ時、目に飛び込んできたのは、揺れ動く無数の光の帯だった。
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