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「…っ!きれい」
思わず口から出た言葉が、白い息と共に一瞬で闇に溶ける。
緑、黄色、うっすらと淡いピンクが強い発色を放っていて、風に舞う羽衣のようになびいていた。
それは力強く、しかし優雅でいてやわらかく、まるでこの世のものではないものを見ているかのようだった。
「美しいだろう?特に今日のは一段と光が強い。こんなに色鮮やかなオーロラは、いつも見られるものじゃない」
「え、そうなんですか…?」
男の人の言葉に、私は意外だと思った。
オーロラで有名なこの村なら、こんなきれいなものがいつでも見られるのだと思っていたからだ。
すると男の人が微かに首を横に振った。
「…言ったろ。天気に恵まれることだと。オーロラは自然現象だ。いつでもこちらの都合で当たり前に見られるものではない。
オレもオーロラは幾度も見てきたが、今日のは特に…、美しい」
男の人は相変わらず淡々とした口調でそう言った。私はちらりと彼を見る。
その隠すように被られた笠の下で、この人はこの景色をどんな顔で見ているのだろう…。
「少しはましな目になったな…」
「え?」
すると男の人が何かつぶやいた。聞き返すも返事はなかったけど。
「死ぬまでに一度は見ておきたい景色は、なにもオーロラだけじゃない。世界のいたる所にたくさんあるんだ。生きている間にそれら全てを見るのが難しいくらい…」
でもな、と男の人が続ける。
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